ログインああ、体が冷えたのね。しかし、アリアは偉いな。恥ずかしいからといって、勝手に森に入っていかずに、ちゃんと教えてくれるなんて助かる。そらはアリアの純粋な行動に感心した。
「ブロッサム、トイレに行ってくるよ。みんなをお願いね」
そらはブロッサムに声をかけ、アリアに小さな手を引かれて、皆から見えない木々の陰へと向かった。
手を繋いだまま、アリアはそっとしゃがみ込み、おしっこをし始めた。その小さな体から、チョロチョロという微かな水音が聞こえてくる。
……いや、隠れてても俺には見えてるんですけど。アリアさん? そらは彼女の無邪気な行為に、内心で複雑な感情を抱いた。
「ありがとなのです」
アリアは用を済ませてスッキリした様子で、元気を取り戻し、再び水遊びを楽しんでいた。湖畔に戻り、ここでも一時間ほど遊び終えると、そらはドライヤーをイメージして、濡れた彼女の下着と髪の毛を魔法で素早く乾かす。
その後、湖畔の開けた場所に焚き火を用意し、香ばしいイノシシの肉を焼きながら、収納から取り出した温かい野菜スープと彩り豊かなサラダを並べて昼食の準備を整える。
「ここでお昼にしようっか」
そらが提案すると、皆が楽しそうに焚き火の周りに集まり、賑やかに昼食を始めた。
食事を終えたタイミングで、そらはそっとステータス画面を開き、今日の朝に回収したゴブリンの魔石の数を確認する。
(ゴブリンの魔石……3860個!?)
その途方もない数に、そらは驚きのあまり息を呑んだ。わずか二時間程度の間に、自分がどれほどの数のゴブリンを討伐し、この地域の脅威を完全に排除したのかを改めて実感する。
時間を潰すために何かを考えるが、特にやることもなくなる。充実した散歩と昼食で、食事を終えたフィオはすっかり眠そうな様子で、そらの腕に寄りかかるとそのまま夢の世界へ旅立った。そらはフィオを優しく抱え、ギルドへ向かうことに決めた。
昼過ぎにギルドに到着すると、予想通り、受付嬢が慌てた様子でカウンターから駆け寄ってきた。そらがフィオを抱えている姿を見て、
領主の執務室に行くと、重厚な木の扉の前には領主兵が二人、無言で剣を携え、厳重な警護についていた。彼らの硬い表情は、室内の秘密を守るという意思を示していた。 転移で部屋の中に侵入し、彼らを観察をしていた。 豪奢な調度品が並ぶ執務室の中、重厚な木の机の奥にある領主の椅子には、脂ぎった顔つきで、見るからに性格の悪そうな男が不遜な態度でふんぞり返って座っていた。その両脇には、着飾った側仕えらしき二人の女性が侍り、男は厭らしい笑みを浮かべながら、彼女たちの体を触り、イチャついていた。タバコのような煙草の匂いと、安っぽい香水の匂いが室内に充満している。 ノアはその光景を目撃し、そらの首にしがみついたまま、ムッとした表情で男を強く睨んでいた。その小さな体からは、弟を軟禁し、領地を奪った男に対する激しい怒りと嫌悪が、微かにそらに伝わってきた。 その男の前には、五人の男たちが床に跪いていた。彼らの顔は青ざめており、領主の男の機嫌を窺うように、一切の動きを見せずに沈黙を守っていた。彼らもまた、この男の横暴な支配下にある現状に不満を抱えているようだったが、何も言えずに耐えている。 (あの男が、ノアの領主権を奪ったヤツか。見るからにロクなモンじゃないな) そらは、ノアの感情を感じ取りながら、冷静に状況を分析した。この男が、ノアの領地と弟の自由を奪っている元凶であることは明白だった。 激しく怒鳴りつける声が部屋に響く。「まだ小娘は見つからないのか!!」「消息も足取りも不明です。安否も確認できておりません。」「何も知らん小娘の一人も探せんのか! 何を遊んでいるんだ!! 使えん奴らだな!」 領主は言葉と共に、脂の乗った肉付きの良い手を机に叩きつけた。分厚い木製の机がガタリと音を立て、その衝撃で彼のグラスの中の酒がわずかに揺れた。側仕えの女性たちはびくりと肩を震わせ、顔色を窺う。「領内から出ることはできないはずなので、領内にはいると思われます。近隣の町や村へ幼い少女が辿り着くのは困難で、不可能かと……。」 跪く男たちは、恐れで顔を一層青ざめさせながら、震える
そらはベッドに座らせられると、ティナは気恥ずかしさを隠しきれない様子で部屋の隅で着替え始めた。「こっちを見ないでくださいね」 恥ずかしそうに顔を赤くさせ、それでも決意を込めた、少し強い口調で言ってきた。「あ、はい……」 そらは素直に返事をした。もちろんチラッとでも見たら怒られるだろうし、二度とこんな機会を与えてもらえなくなるので、ここは大人しくしておこうかなと決意した。壁の木目を熱心に観察するフリをした。 しばらくファッションショーに付き合ったが、次はパジャマも試してみるのだろうか? そっちの方が普段見れない姿だから楽しみなんだけどなーとか考えていた。 その時、コンコンと控えめなノックの音が聞こえた。ティナが警戒しつつもドアを開けると、眠りから覚めたばかりのフィオが目をキラキラさせながら走ってきて、一目散にそらの膝の上に座り、抱きついて甘えてきた。「わたしも、そらと、いっしょにいるぅ」「うん。良いよ。」 そらは優しく言いながら、フィオの柔らかな髪を愛おしむように撫でた。フィオはニコニコしながら、さらにそらに体を擦り付けて甘えてくる。その様子が可愛くて、そらは思わず微笑んでしまった。 フィオとそらのやり取りを見ていたティナは、一瞬だけ、少し残念そうな顔をしていた。その表情はすぐに消えたが、そらは見逃さなかった。 ティナのプライベートファッションショーは華やかなドレスが終わり、次にリラックスできる部屋着やパジャマへと続いていった。ティナが鏡の前で一生懸命服を試着している間、そらの膝の上にいるフィオは安心しきった可愛い寝顔ですっかり眠ってしまっていた。「私に、こんなに服があるなんて初めてですよ! 移動が大変になるし、お金もなかったので、すごく嬉しいです……本当に、ありがとうございます」 ティナは新しい服に囲まれ、心からの喜びを込めて言い、少し照れくさそうに笑った。その笑顔はとても優しかった。 ちょうどそのタイミングで、ステフがドアの外から「お昼ご飯の準備ができましたよ」と穏やかな声で呼びに
「正式にパーティに参加してもらえることになったんですよ」 そらが嬉しそうに報告すると、ギルマスは目を見開いて喜びを表した。「ティナがパーティに参加か、珍しいな! それは良かった。心配してたんだぞ! 毎回ヘルプで入っていたしな。これで安心だな!」「……はい」 自分の加入を心から喜んでくれるギルマスの言葉に、ティナが頬をほんのり赤くしていた。照れてるのかな? そらはその可愛らしい反応を見て微笑んだ。「報酬の件だが、支払いは大金貨と金貨になる。問題はないか?」 ギルマスは目の前の机に分厚い帳簿を広げながら、金額の大きさを確認するように尋ねてきた。「はい、大丈夫ですよ」 そらは特に動じることなく、軽く頷いた。「え?! そんな大金貨!? え、大金ですね……」 ティナはその金額に驚き、声をひそめて息を呑んだ。「まあ当然の報酬だ。討伐数の桁が違うからな。後日に領主様と国王様からも報酬が出るからな! 両方からの依頼が来ていた案件だからな」 ギルマスは誇らしげに胸を張り、その依頼の重大さを説明した。 お金には困っていないけれど、貰えるものはしっかり貰っておこう! 正当な報酬だし、遠慮することもない。そらは目の前の大金に冷静な態度を崩さなかった。 最近、お金が減らない! 文字通り、いくら使ってもマックス表示から変わらない感じだ。マックス以上の記録もされているっぽいから、何か裏で増えているのかもしれない。 お金を使うことがほとんどないし、服は魔法で出したり、食事もイノシシの肉を食べているから、必要なのは野菜くらい。だから、この後はティナの服を買ってあげようかなと思っている。 ギルマスからずっしりと重い大金貨と金貨が入った革袋を受け取り、改めて挨拶をしてギルドを出た。「この後、服を見に行こうか?」 そらがさりげなく提案すると、ティナは少し不思議そうな顔をした。「良いけど、そらさんの服?」「うん」 目
翌朝―― 息苦しさでそらは目が覚めた。何かが顔の上に乗っているような……。状況を把握しようと、退けようと手を伸ばすと、柔らかく弾力のある感触が手のひらに広がった。『ぷにゅっ♡ ぷにゅっ♡』(これは……この感触は。ああ、すぐに分かった。これは……ティナの胸だ) そらは昨夜、彼女が自分の腕の中で眠りについたのを思い出した。 けどまあ……せっかくなので、もう少しこのまま目を閉じていようっと。うん、朝から幸せだ。そらは至福の瞬間を味わいながら、微睡(まどろみ)の中に身を委ねかけた。 ……いやいや、そろそろやめておかないと、悲鳴でも上げられたら困る。そらは理性が働くのを感じ、ゆっくりと瞼を開けた。 そらがゆっくり目を開けると、視界に飛び込んできたのは、ティナをしっかりと抱きしめ、その柔らかな胸に手を添えているという、完璧で言い訳不能な構図だった。ティナはまだスヤスヤと眠っている。 そしてその光景を、ベッドの端からエルとブロッサムがジト目で、冷たい視線を送っていた。二人の瞳には呆れと怒りが混じっている。(……スミマセン。これは……事故、偶然の事故なんです) そらは心の中で平謝りし、そっとティナから手を離した。 ステフが台所で朝食の準備をしてくれている間、そらは居心地の悪さから逃れるように食材の保管庫を確認しつつ、在庫の補充をすることにした。昨日仕留めたイノシシの魔獣を魔法で解体し、部位ごとに肉を整えて並べておく。 野菜や果物は大量に買っておいたから、しばらくは問題なさそうだ。塩や砂糖も魔法でまとめて生成してあるので、当分の備蓄は心配いらない。生活の基盤はしっかりしている。 さて、今日はどうするかな。皆のスキルアップでもやるか。ティナも来てくれたし、せっかくだから先生として手伝ってもらおう。そらは今日一日の計画を立て始めた。 あ、その前に…&hel
「あー、まぁ……そんなところかな」 そらが曖昧に頷くと、ティナは興奮を隠せない様子で言った。「すごい、幸運だったんですねっ! それって、国宝級かも。一生遊んで暮らせるレベルですよ!」 目をキラキラさせながら、ティナがじっとそらを見つめてくる。「へぇ〜、そんなにすごいんだ?」「うん、防具や武器はもちろん、実用品や美術品にも使われるの。でも、すっごく希少で、滅多に市場には出ないからね」「そうなんだ? でも、ドラゴンってその辺にいっぱいいるのに?」 そらが無邪気に問い返すと、ティナは心底驚いた顔で否定した。「いやいや、ドラゴンはその辺に“いる”って言われても、あれ不死の存在だよ? 討伐なんて無理だよ」「そ、そうなの? へぇ……ドラゴンって、倒せないんだ……」 そらは自分の過去の行為を思い返し、内心で冷や汗をかいた。 ――あれ? 俺、普通に倒しちゃったけど? え、やばいのかなこれ……とりあえず黙っておこう。 そらは何食わぬ顔でいることを決意した。「ドラゴンってね、生きてる間は全身に魔力が流れてるから、剣や槍の物理攻撃は効かないし、魔法もはじいちゃうの。魔獣や魔物も、ドラゴンには近寄らないくらい怖がってるんだよ」 ティナの説明を聞きながら、そらは自分の経験を思い返した。 あー、それ知ってる。狩りに連れて行くと、ドラゴンのオーラやドラゴンの威圧だかで獲物が逃げちゃうんだよな……正直ちょっと邪魔だった。「そうなんだ……」「昔ね、他国の軍が村を襲ったドラゴンを討伐しに行ったんだけど、逆にその国が滅んだって話もあるくらい。だから、さっきびっくりしたの。あのドラゴン、一体何者なの?」「えっとね、確か……竜の谷の最古のドラゴンの王って言ってたかな?」「&hellip
ティナは状況を飲み込もうと、そらの言葉を反芻するように尋ねた。「一緒に住んで、パーティに入れてくれるってことなのかな?」「うん。うちのパーティは、まだ戦力になる人が、あんまりいないからさ」 そらののんびりとした答えに、ティナは困惑を覚えた。「この前のゴブリン殲滅って、そらくんのパーティでしょ? すごい強いって噂だったよ?」「ああ。あれは、全部ボクが……やったんだよね」 そらは照れた様子もなく、あっさりと告白する。「……まあ、今日の様子を見て、なんとなく分かってたけど……」 ティナはドラキンを従わせている光景を思い出し、そらの規格外の能力を改めて認識した。「じゃあ、冷えちゃうから、話のつづきは、家に帰ってからにしようか」 そらが優しく提案すると、ティナは潤んだ瞳で静かに頷いた。「うん」「じゃあ、家に帰ろうか」 そらが何気なく発したその一言──「家に帰ろう」──が、ティナの心に深く響いた。長らく定住できず、常に居場所を求めて旅を続けてきた彼女にとって、「家」という温かい言葉はあまりにも重く、優しかった。 その一言にティナが、堰を切ったようにぽろりと涙をこぼした。星明りの下で光るその雫は、彼女が抱えていた寂しさを物語っているかのようだった。 ――えっ……泣いてる? そらが声をかける間もなく、ティナは無言でそっとそらの腕に手を回し、そのままぴたりと寄り添ってきた。その行動は、彼女の抱える安堵感と寂しさを雄弁に物語っていた。「……っ!」 柔らかくて温かい感触が、そらの二の腕に触れる。ティナさん……その、大きな胸が……はっきりと当たっている。そらの心臓がドクンと大きく跳ねた。 しかも、なんだかさっきまでと雰囲気が違う。警戒心や真面目さが溶け、口調も、表情も、まるで甘えるように少し